Bloom of Hedge

自作小説の更新雑記や読書感想・日常メモなど。 拍手お礼・コメントレスは「続きを読む」を押して下さい。

2010/12/30

『R.I.P.』未公開SS

こんにちは、絵里衣です。
世間では絶賛年末年始ですが、わたしは変わらず仕事デース(大晦日も出勤)。

昨日ブログで連絡した年末駆け込み更新として、『R.I.P.』未公開SSを掲載します。
これはアルファポリス様主催の第三回ミステリー大賞期間中に執筆したものですが、どうにもこっ恥ずかしい内容だったためいったんボツにして、『マリッジブルー』に差し替えました。
今年はほとんど更新もなくさすがに申し訳ないので、急遽発表することにしました。

書いた当初は恥ずかしくて軽く死ねましたが、今読むとやっぱり恥ずかしさは残るものの、実はそれほどでもないかもと思ってみたり。どっちやねん。

今のところは、ブログのみの発表になります。
リクエストがあれば正式採用するかもですが、タイトルも決められないくらいこっ恥(略)。

今年一年、本当にお世話になりました。
新作はだいぶ先になりますが、来年も当サイトをよろしくお願いいたします。
皆様、よいお年を。



それでは、「続きを読む」からどうぞ。



 もう、最低。
 貴重な休日だってのに、どうしてこんな混雑に巻き込まれなくちゃいけないの。
 そう心の中でぼやいたあたしの肩に、大学生らしきグループが大騒ぎしながらぶつかっていく。思わず声を上げると、手を引いてくれていた秀明さんが「大丈夫か?」と振り向いた。
「平気。でもすごい人だね」
 かなり大声で返事する。こうでもしないと、きっと聞こえないだろうから。
「ああ。こっち側なら少ないと思ったんだけど、甘かったな」
 同じように叫ぶような声で返した秀明さんが、眉を寄せていた。どんなに混雑していようが、頭一つ分抜きんでているので、表情はすぐ見て取れる。
 六本木署へ異動になったあたしは、以前よりは生活リズムが整うようになった。けれども入れ替わりに捜一に復帰した秀明さんは、警部補に昇進したこともあり今まで以上に仕事が忙しく、ほとんど休みも取れない状況になってしまった。だから、なかなか会えないことには変わりなかった。
 そんな中、奇跡的に休日が重なった。丸一日一緒にいられるなんて、本当に何ヶ月ぶりだろう。
 思いっきりデートを楽しもうとしたのに、間が悪く……といってはファンに怒られてしまうかもしれないけれど、ワールドカップの日本代表戦の日にちとかぶったのだ。
 もちろん応援したい気はあるんだけど、街中の異常な熱気には正直引いてしまう。街角の大型ビジョンの前にはユニフォームを着たファンがたまっていたし、飲食店はどこもかしこも満員御礼。だからあたしたちはスポーツ観戦とは縁のない、落ち着いた和食店で食事を取り、なるべく人混みを避けてきた。けれどもとうとう、駅に向かう途中で混雑に巻き込まれてしまった。
 駅前広場がまるでスタジアムの様相を呈していて、お互いの声も聞こえないほどのお祭り騒ぎだ。何十人も動員している制服警官に、心の底から敬礼したくなった。
 ようやく改札口が見えはじめたとき、あたしはなにかを蹴ってしまった。というか、ひざにぶつかった。
 確認すると、青いかたまりが落ちていた。よくよく見ると、それは青い服を着た子どもで、ひざを抱えてうずくまっていた。
 驚いたあたしは、
「待って、子どもがいる!」
と、秀明さんの手を強く引っ張った。
「こんなとこに? 迷子か?」
「そうかも。ちょっと、開けてください! 子どもがいるんです!」
 大声を張り上げて注意を促すと、ほんの少しだけ周りにすき間が出来た。あたしはかがみ込み、子どもの両脇に手を入れてなんとか立たせた。
「大丈夫? 痛いとこない?」
 服装を整えてやりながらそう訊ねると、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした子どもは、しゃくり上げながらもうなずいた。
「パパとママはどうしちゃったの?」
「……わかんない」
 年齢ははっきりしないが、おそらく幼稚園児くらい。男の子で、小さいながらも一人前にユニフォームを着ているところを見ると、親と一緒に応援に来たもののはぐれてしまったのだろう。
 ようやくたどり着いた秀明さんが、あたしたちをかばうように身を折った。
「どうしよう、その辺の警官にお願いする?」
「そうするしかないな。しっかし、こんな中で見つかるのかよ」
 秀明さんが苛立たしそうにつぶやいたとき、どこからか「ユウキー!」という女性の声が聞こえた。
 あたしが反射的に辺りを見回したのと同時に、腕の中の男の子も顔を上げた。
「ママだ!」
「坊や、ユウキくんっていうの?」
「うん」
「おねえちゃんとおんなじ名前だね」
 そう言って笑いかけると、男の子は不思議そうな顔をした。
「おねえちゃんもユウくんなの?」
「あはは、おねえちゃんはユウくんじゃなくてユウちゃんかなあ」
 そんな呼ばれ方をしたのは久々だな、なんて、あたしはふと思ってしまった。
「ちょっと待ってろ。今呼ぶから」
 立ち上がった秀明さんが、遠くを見透かすように首をめぐらせている。もう一度声がした方向に手を振っているが、相手は下ばかり見ているのか気付かないらしい。
 肩を落としてこちらを向いた秀明さんは、あきらかに苦り切った様子だった。
 その表情に、あたしは不安を覚えた。
 もしかして、子どもが苦手だったりするのかな。
 ありえなくはない。
 というか、今まで子ども好きだと思わせる場面なんて、一度もなかったんだから。もともと好き嫌いの激しい性格だし、子ども嫌いであってもおかしくない。
 どうしよう、「もう放っておけば」なんて言い出したら。
 すると秀明さんはなにかを思いついたらしく、にやっと笑った。
 あ、この顔。
 ちょっとしたイタズラをしようとしたときにする顔だ。
「ボウズ、ちょっと来い!」
「え、なに?」
「いいから、ほら!」
 あからさまにビビる男の子を抱きかかえ、秀明さんは軽々と肩に担ぎ上げた。
 百八十センチを余裕で越える身長で肩車をしたもんだから、男の子の身体はたちまち人混みより一段高くなった。これならどこからでも見つけることができるだろう。
「どうだ、これなら分かるか? あっちの方にママがいるだろ?」
「わあ、すごーい! パパより高ーい!」
「おい、喜んでないで探してくれよ」
 さっきまでの泣きべそはどこへやら、男の子は大はしゃぎだ。髪の毛をわしづかみにされて困り顔の秀明さんがそう促したとき、「あそこ!」という声がした。
 やがて人混みをかき分けて、おそろいのユニフォームを着た半泣きの男女がやってきた。男の子を受け取ると、ふたりは平身低頭で礼を言いつつ去っていった。




 ようやく人混みから解放されたあたしたちは、改札内の自販機で飲み物を買って一息ついた。
 改めて見ると、短めの髪がぐしゃぐしゃになっている。先ほどの健闘をなによりも雄弁に物語っていて、思わず笑ってしまった。
「なんだよ」
「ううん、なんでも。見つかってよかったね」
「まあな。デカイのもたまには役に立つもんだ」
 そう言って、乱れた髪をなでつける。
 秀明さんは、自分の長身があまり好きじゃない。職務上目立って仕方がないというのもあるし、単純に生活しにくいという理由だかららしい。その辺は、あたしも同意する点が多い。
「それにしても、意外だったな。秀明さんって子ども苦手なのかと思った」
「なんで?」
「なんとなく」
「別にそんなことねえよ。俺が苦手っつーより、子どもの方で怖がるんだよな」
 それを聞いたあたしは、深くうなずいた。
「ああ、なるほど」
「……そこは納得するとこじゃねえだろ」
 すっかりむくれた彼は、「どうせ俺は人相悪ィよ。こないだも目が合っただけで泣かれたしな」とぼやきながらコーヒーをあおった。
「でも、さっきの見直しちゃった。なんだか、いいお父さんって感じで……」
 何気なく言いかけて、はたと気付いた。
 秀明さんがお父さんということは、もしかしてお母さんは──。
 ──あたし?
 横目で隣をうかがうと、同じことを考えたらしくガリガリと頭をかいている。
 そして、
「まあ、な。子どもはわりと好きな方だし。そういう祐希も、あやすのがうまいよな……」
などと、思わせぶりな台詞をつぶやいた。
 ……やっぱ、そうなっちゃいます?
 いやまあ、結婚も決まったし、別におかしかないんですけど。
 なんだか急に照れくさくなったあたしは、空になった缶をゴミ箱に押し込み「さ、もう帰ろ!」と、先に歩きはじめた。
 すぐに追いついた秀明さんが横に並び、ごく自然にあたしの手を取った。付き合いはじめはこっちからせがまないと手もつないでくれなかったのに、ずいぶん進歩したなあ。
 全然懐いてくれなかった野良猫が、ようやく側に来てくれたときの心境に似てる。ま、外見は野良猫というよりジャーマン・シェパードだけど。
 ホームに上がったところで、
「明日は早いのか?」
と、聞かれた。
 これは一種の符丁で、もし「早くない」と答えれば彼はあたしの家に泊まり、「早い」と答えれば自分の家に帰る、という流れになっている。
 まだ別れたくなかったあたしは、「ううん」と首を振った。
 きっと、彼も同じ気持ちだろうから。



 電車がホームに到着した。
 乗り込む瞬間、
 ──ああ、これからは同じ家に帰るんだ
と、ふと思った。
 今はまだ別々だけど、これからは帰る「家」が同じなんだ。
 次に会える日を待たなくていいんだ。
「どうした?」
 急に黙ってしまったあたしを、秀明さんがのぞき込んでくる。
 子どもには泣かれてしまうという、ちょっと迫力のある面立ち。
 でもあたしは知ってるの。
 本当は優しくて、すっごい照れ屋で、そしてあたしのことが大好きで。
 そして今日、実は子ども好きだってことを知った。
 昨日よりも今日、今日より明日、あなたのことをより知っていく。
 ずっとずっと、毎日新しいあなたに出会えるんだ。
「──これからも、よろしくね」
 まだ見ぬ、あたらしい秀明さん。
 あなたがまだ知らないあたしも、たくさんいるのよ。
 だからあなたも、あたらしいあたしに会いに来てね。
「……なにが?」
 いきなりあいさつされて戸惑う秀明さんに、あたしは黙って笑いかけた。



END



これを書いたときはちょうど日本中がワールドカップ一色でした。
サポーターの熱狂ぶりを批判するような内容に思えて自粛したんですが、今読むとそれほどでもないですね。
お楽しみいただければ幸いです♪

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Author:絵里衣
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花魁・女刑事・昭和初期・ヴィクトリア朝などをこよなく愛す。

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