Bloom of Hedge

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2011/07/06

『東京フラッパーガール』ミニSS

えー、ようやくゴールが見えてきました。
これまで調子よく書けてたんですが、とある箇所で引っかかってかれこれ二週間ほど、書いては消しの繰り返しでした。
なんとか峠は越えたので、これから一気に書いてしまいたいです。

番外編の話。
続編が上がり次第、その足でアップしますね。
で、そのまま継続して続編連載と。
今回続編を寝かせる時間がほとんどないので、かなりアレな文章になってると思います。
おお怖い。

あと、個人的にちょっと書いてみたかった「麻布の一件」を、ミニSSにしてみました。
もしよろしければお茶請けにでもどうぞ。
※ネタバレしてるので、本編を読了後の閲覧が望ましいです※



では、「続きを読む」からどうぞ。



「おい、貴様ら。止まれ!」という声に、敦と環は同時に振り返った。
 背後には憲兵がふたり立っており、懐中電灯でこちらを照らしていた。
 ──しまった、やはり見つかったか
 上官に麻布一帯の巡回強化を提案し、赤坂分遣隊に連絡がいったのは一昨日のことだ。今この辺りをうろつけば、自分たちが不審者として見咎められるのは容易に想像できた。だからここへは来たくなかったのだ。
 自分で仕掛けた罠に引っかかってしまった敦は、ひそかにほぞを噛んだ。
 まだ、環に自分の正体がバレてはいけない。
 ここはなんとかして乗り切らねば。
「まずい……、憲兵です」
 そう環に注意を促すが、彼女がなにか言う前に憲兵たちが灯りを付き出した。
 まぶしさに顔を逸らすふたりに、憲兵たちは言った。完全なからかい口調である。
「なんだ、女がこんな時間にうろつきおって。商売なら円山町あたりでやれ」
「洋装断髪のモダンガールか。おい貴様、一晩いくらで買ったんだ」
 ──こいつら……
 一般市民に対して、なんて口の聞き方だ。
 たしかに、夜中に男女ふたり連れでうろついていれば、怪しまれても仕方がない。だが、取り調べもせずに頭から決めてかかり、あまつさえ侮蔑するとは。いったい赤坂ではどんな教育をしているのか。
 怒りを覚えた敦だが、それより早く環の堪忍袋の緒が切れた。
 自分の緒が鉄ワイヤーならば、彼女のは蜘蛛の糸。ほんのささいな衝撃で簡単に切れてしまう。
「なにが商売よ、失礼ね!」
「いけません、お嬢……いや、所長」
 後ろめたさで、つい声が小さくなる。
「とにかく、落ち着いてください。事を荒立てては不利です」
「不利でもなんでも、いきなりこんなこと言われて黙ってるあたしじゃないわよ!」
 ああ、やっぱり。
 いや、知ってましたけどね。
「断髪洋装なら即商売女と連想するなんて、よっぽど貧弱な想像力しか持ち合わせてないようね。人は見かけによらないなんて、今時子どもだって知ってるわよ。不法逮捕する前に、もう一度小学校からやり直してきたらどう、ケンペーさん?」
 環は胸を反らせて憲兵たちを挑発する。この度胸といったら、鉄火場の男たちに勝るとも劣らないのでは。
 敦が内心はらはらしていると、
「なんだと、この女……!」
と、憲兵のひとりが腰の軍刀に手を掛けた。
 まさか一般市民に抜刀することはなかろうが、相手は環だ。暴れに暴れて収拾が付かなくなり、やむなく拘束される恐れは十分あった。
 これ以上は無理だと判断した敦は、環と憲兵たちの間に割って入った。
「たいへん失礼いたしました。事情をご説明しますので、申し訳ありませんがこちらへ」
 憲兵たちは憎々しげに環をにらみ、それでも敦についてきた。これで“事情をご説明”できる。
 すると環も当たり前のようについてこようとしたので、向こうで待つよう押しとどめた。分かりやすいふくれっ面で、彼女は引っ込んだ。



 会話が聞こえない場所まで移動し、憲兵たちに向き合った。
「で、なんだ? 事情というのは」
「女の前だからっていい格好しやがって。どんな言い訳をしても、貴様らを連行するからな」
 横柄な口調で悪態をつく彼らに、敦は懐から取り出した憲兵手帳を無言で突き出した。
 最初、彼らは黒革の手帳の正体が分からなかったらしい。懐中電灯を持ち上げて照らしたので、ご丁寧に中を開いて所属名などが記されたページを見せてやった。
 懐中電灯の反射だけでも、彼らの顔つきがこわばるのが分かった。
 片や金條なしの上等兵、片や地方の分遣隊なら隊長を務める中尉。階級の差は歴然である。
「し……失礼いたしました!」
 懐中電灯を放り投げんばかりの勢いで敬礼する彼らを、
「静かにしろ!」
と一喝する。ふたりの身体は、いまや二本の棒だ。
 案の定、上等兵たちの視線が敦の背後に投げられる。手帳を懐に戻してから、振り返らずに注意だけした。大声を出すと好奇心の塊である環がのぞきたがるのは、予想の範囲内である。
 気配が引っ込んだのを見計らい、
「所属は赤坂分遣隊だな。氏名は?」
「はっ、山田太郎上等兵であります」
「佐藤次郎上等兵であります」
「よし」
 ふたりの腕を降ろさせてから続ける。
「お前たちが聞きたがっていた事情を説明しようか。現在、要人の警護および内偵中、連れの女性は警護対象者だ。訳あって、身分を秘匿している。以上、ほかに質問は?」
 ふたりは硬い表情のまま、否と答えた。
「麻布一帯の警備強化の任務が課せられているな? 見るからに不審な俺たちへ声を掛けたのは評価しよう。だがな……」
 一呼吸置き、続ける。
 目の前の上等兵たちは、蛇ににらまれた蛙のごとく固まっていた。
「口の利き方を考えろ。憲兵としての威厳を持つのと、権力をかさに着るのとをはき違えるな。それだけだ」
「……はっ、申し訳ありません」
 先ほどまでの尊大な態度はどこへやら、すっかり萎縮した彼らを、敦は憮然と見下ろした。
 環のことを悪く言われ、つい熱くなってしまった。
「もういい。それより、巡回経路の中に歩三の浅倉修平大尉どののお宅は含まれてるか」
「浅倉大尉どのですか。お待ちください」
 山田と名乗った方が手帳を繰り、「はい、含まれております」と答えた。
「今日はこれから回る予定か」
「はっ、予定では二三〇〇頃に……」
「あと三十分遅らせろ。もしその際なにかしらの騒ぎがあっても、近づかず周辺で待機するんだ。いいな」
「はっ、了解であります!」
 浅倉の家を確認するだけではすまないだろう。彼女の性格なら、その場で乗り込む可能性すらある。
 だが、今はその時期ではない。
 できる限り自分で阻止するが、もし振り切られた場合のことを考え、この上等兵たちを配置しておくべきだと、敦は考えた。
「二日前から巡回はしているな。なにか変わったことはあるか」
「昨日、一昨日と、いずれも私服姿の男たちが出入りしています。照合したところ、何人かが歩三の将校どのと一致しました」
 二日続けて会合を開いているということは、今日も彼らは集合しているかもしれない。ますます、環を踏み込ませるわけにはいかなくなった。
 懐から懐中時計を出し、時刻を確認する。あまり時間は残されていない。
 もう一度上等兵たちに指示を出した敦は、きびすを返し環のもとへ戻った。



「もういいの?」
「はい。事情を汲んでくださり、今回は見逃してもらえるそうです」
 そう説明すると、環はむうと唇をとがらせた。おおかた『見逃す』という単語が気にくわないのだろう。
 残してきた上等兵の方へ、ぺこりと頭を下げる。あわてて敬礼を返す彼らに、思わず「馬鹿、そんなことをすればバレるだろう」と叱りつけてやりたくなったが、ぐっと飲み込んだ。
 足早にその場を離れる敦を、後ろから環が追ってくる。基本的に敦が先を歩くことはないため、妙な感じだった。
 ふと、着物の袂が引かれる。
「ねえ、なんて説明したの?」
 振り向くと、環がこちらを真っ直ぐ見つめている。
 説明など、簡単にごまかせる。
 念のため持ち歩いている中将閣下直筆の書状があるため、これを見せたと言えばいいのだ。
 まあ、そんなことをしなくてもまったく疑っていない様子ではあるが。
 内心ほっとした敦は、つい笑みを浮かべてしまった。
「言ってもお怒りになりませんか?」



END




以上、メガネ視点でお送りしました。

メガネが上等兵に対して「俺」という一人称を使っているのは、一種の軍隊用語みたいなものだと思ってください。
・対上官→「自分」
・対同僚&部下→「俺」
・プライベート→「ぼく」
ややこしいですね。

陸軍では「僕」とか「私」は軟弱だと言われ、入営したての新兵がうっかり使おうものなら鉄拳制裁を食らう、とのことだそう。
将校はどうか知りませんが、よほど貫禄のある年齢(階級)じゃない限りは、やっぱり「俺」と称していたみたいですね。
ちゃんとした資料がないので、適当ですが……。

ついでに、ここではメガネがずいぶん偉そうにしゃべってますが、普段はここまで高圧的じゃないです。
環を下品にからかわれたので、かなりムカついたようです(笑)。

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